もはや美しすぎて…芸術の域に達した「イノサン」

「死刑執行人」と聞いて想像するものとはなんでしょうか?恐ろしい人、人を殺すことに何の抵抗もない人、頭がおかしい、様々な、それでも忌み嫌われてしまう意見が多いでしょう。

18世紀、フランス動乱革命の少し前に、パリの死刑執行人として、ひそやかにしかしはっきりとその名を馳せていたサンソン家を描いた作品が「イノサン」です。
主人公は、シャルル・アンリ・サンソン。最初は気の弱い、なよなよとした少年で、とても死刑執行などできるような性格ではなかったアンリですが、奇しくも長男として生まれてしまったがゆえに、父シャルル・ジャン・バチストに徹底的に死刑執行人としての心得を教え込まれ、いつしか立派な「ムシュー・ド・パリ」と呼ばれるほどの死刑執行人になるお話です。
当時のフランスはまだ「どの家に生まれたか」で人の一生が決まる社会で、「絶対王政」の時代です。国王がすべての権力を握り、2%の貴族と聖職者が残りの98%の平民を統治していたため、貴族と聖職者たちはやりたい放題でした。
平民は貴族の豪華な生活を支えるために、すべてを捧げ、時には命も奪われるようなこともありました。
政府は国家統制のために、刑罰の権利を独占し、死刑は市民の命を左右するものとなったため、国家が国民に対して持つ究極の権力の象徴としておそれられるようになりました。
そして氏の権力を執行する死刑執行人こそが、「サンソン家」でした。
もともと医者として社会貢献してきたにもかかわらず、「死神」の異名をつけられ、ののしられる存在となった「サンソン家」に生まれたアンリは、初めの死刑を執行するまでは、何の覚悟もできず、ただただ怒られるのが怖くて、父の教育に甘んじてました。
しかしそのうちに「執行人にはなりたくない」と思うようになり、父に抵抗します。
しかし、当時のフランスで父に逆らうことは大罪と言っても過言ではありませんでした。
父から散々ひどい拷問を受け、黙らざるを得なくなったアンリの心境がどんどん変化していきます。
いよいよ初の死刑執行の日、アンリの気持ちは「いかに、苦しまずに逝かせられるか」という慈悲の心に変わっていました。
アンリがその意識に完全に変わったのは、アンリが愛した男を処刑しなくてはならなくなった時でした。
少しずつ成長していくアンリが、4代目の死刑執行人になるまで、その覚悟を背負っていくまでが垣間見れる素晴らしい作品です。” 今、絶対に読んでおくべき一冊です “読むと、とてもつらい気持ちになります。しかし、このような史実があったこと、それぞれの心境をこんなにも美しく表現したものは他にはありません。
もはや芸術の域です。

この「イノサン」はもう、漫画の域を超えています。
坂本眞一さんの独特な表現方法が、枠から、本からはみ出ています。
大人向けの絵柄ではありますが、とっつきにくいことはありません。
コマによっては多少グロさを感じる部分もありますが、それもまた18世紀をきちんと紹介した坂本ワールドなのでしょう。
特に見開き1Pにわたって、大自然の中をたたずむアンリを絵として描いた場面は、とても印象深く、この絵に色がついてキャンバスに描かれたものだったら、確実に手に入れようと必死になってしまうレベルです。絵柄は好き嫌いがあるところではありますが、薄めのサラサラとした筆圧でありながらも、そのインパクトはものすごいものを感じます。
全9巻で一応完結で終わっていますが、実は、アンリの妹であるマリージョセフの不良っぷり、暴れっぷりを描いた「イノサン・ルージュ」という、続編があります。
続編の前に是非、「イノサン」を読みこんで、それぞれの名前を覚えておくと後で楽々で進めることができますよ。
そしてイノサンで上げられた伏線で、まだ回収も周回もしなければいまいちわからない違和感がずっとここにあります。
つまり、続編での回収を試みているということですね。
歴史上、合間に葬られてしまうかもしれない恐怖と、アンリサンソンの成長ぶりをしっかりと受け止めてあげたくなる作品です。
少なくとも2回読めばわかるはずです。何度でも読みたくなる漫画、「イノサン」を紹介させていただきました。
皆さんもぜひ、この美しい絵画を一緒に楽しんでみませんか?
歴史オタクの方もそうではない方も、この美しい絵を見れば、きっと感動できるはずです。
作者の愛情に感謝しながら…おやすみなさい

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